「スキル、落ちるんじゃないかな」と、ずっと思っていました
病院から施設に移ろうかと考えていたころ、「派遣で施設に行ったら、スキル落ちるよ」という言葉が、ずっと頭の中で鳴っていました。これ、誰かに言われたわけではないんですよ。たぶん私が自分で作って、自分に言い聞かせて、思い込んでいたんだと思います。
私は病院で働いたあと、海外に出て、帰ってきてから応援ナースを4年。憧れだった北海道でも1年働いて、今は東北の施設にいます。あのころ怖かったことが実際どうだったのか、少し振り返ってみようと思います。
怖かったのは、手技のことではなかった気がします
あらためて思い返してみると、私が気にしていたのは手技が鈍ることそのものではなかった気がします。いちばん怖かったのは、病院に戻れなくなることでした。施設のリズムに慣れてしまったら、もうあの忙しい病院には戻れないんじゃないか。いつかは戻って、もう一度病院の業務に慣れておかないと、看護師としての線路から外れてしまうんじゃないか。そんなふうに思っていました。
もうひとつ正直に書いておくと、「今は施設で働いています」と言うとき、なぜか少し言い訳をしたくなる自分がいました。病院にいるのが看護師の正しい姿、みたいな思い込みが、自分の中にしっかり根を張っていたんだと思います。誰かに言われたわけではありません。いつのまにか自分で自分に教え込んでいた、という感じでしょうか。
思い返してみると、私のまわりの同年代はみんな病院でバリバリ働いていました。施設で働いている友人は、ひとりもいなかったんです。だから施設のことは、実際に見たわけでもないのに、なんとなくベテランの看護師さんが行くところ、というイメージのまま止まっていました。施設での働き方を、私はまったく知らなかったわけです。
だから施設で働きはじめてからもしばらく、「ずっとここでやっていく」と決めきれずにいました。
実際に働いてみて、離れたもの
前置きが長くなりました。実際どうだったのかを書いていきます。
まず、確実に離れるものがあります。医療機器です。人工呼吸器も心電図モニターも、施設では扱いません。触る機会そのものがないので、使わなければ感覚は鈍っていくと思います。急変対応の場数も、病院にいたころより減りました。
なので「急性期のスペシャリストとして腕を磨き続けたい」「認定や専門の道に進みたい」ということであれば、病院で積み上げるほうが向いていると思います。
そして、上達したもの
ここからが、私にとって意外だった話です。
採血や点滴留置は、むしろ上手くなったと思います。施設にいるのはほとんどが高齢の方で、血管が見えない、浮き出ない、細い。若い方の腕とはまったく違います。病院で「ちょっと難しい人」だった血管が、施設では標準になります。そういう血管に毎回向き合っていると、自然と鍛えられていきました。施設に行ったら腕が落ちると思っていたので、これは逆でしたね。
もうひとつ増えたのが、判断と観察の場数です。施設は、医師にその場ですぐ相談できるとは限らない場所です。だから「様子を見ていいのか、受診したほうがいいのか」を最初に決めるのは看護師になることも多いです。施設ならではの仕事に「受診対応」があります。最初は嫌いでしたが、今では自分から手を挙げられるくらいには変わりました。何がきっかけだったのかは、こちらに書きました(→【受診対応が、気づいたら好きになっていた話。】)。
それから、これは施設だからというより派遣だからですが、初めての職場で立ち上がる力もついた気がします。物品の場所も、記録のシステムも、人間関係も毎回ゼロから。それを数週間で戦力になるところまで持っていく。これを何度か繰り返していると、最初は何も分からなくて当たり前だと思えるようになって、必要なことを最短で聞き出せるようになりました。
また施設は医療処置がまったくない場所だと思われがちですが、実際は点滴も採血も胃ろうも吸引も看取りもあります。日々なにをしているのかは別の記事にまとめました(→【施設看護師の仕事内容って実際どう?病院から来た私が感じた違い】)。
「戻れなくなる」わけでも、なかった
いちばん怖かった「病院に戻れなくなる」のほうも書いておきますね。
施設に来て半年で病院に戻った看護師さんがいました。時間の流れが合わない、やっぱり病院で働きたい、という理由だったと思います。半年です。すぐでした。
派遣は次にどこで働くかを自分で決められますし、派遣の求人には病院から施設、訪問看護まで幅広くあります。だから、働いてみて自分に合わないなと思ったら、次の契約で方向性を変えればいい。それだけの話でした。
私の方はというと、働いてみたら施設のほうが自分に合っているなと思えて、今は施設をメインに探しています。
今は、こう思っています
「看護師として働いている」という実感は、病院にいたころより薄いように感じます。そのかわり、利用者さんと長く関われることや、生活を支えるという視点は施設ならではで、そこは自分に合っているなあと思います。看護技術が必要な場面も、自分で判断しないといけない場面もあるので、勉強にはなっています。
スキルが落ちるかどうかは、病院か施設かで決まるというより、その場所で何を求められるかで変わるのかなと思います。施設には施設で必要なことがあって、これができれば大丈夫、という線もあります。同じ病院の中でも、どの科にいるかで触る処置はずいぶん違いますよね。場所が変われば、身につくものも変わる。それだけの話なのかもしれません。
こうして書いてみると、あのころ私が怖かったのは、スキルのことではなかったんだなと思います。人からどう見えるか、のほうでした。看護師としての線路から外れて見えること。施設に行った人、と思われること。自分がどうしたいかより、そっちのほうがずっと大きかった気がします。見たこともない場所を、勝手にそういう場所だと決めていたんですよね。
しかも「病院がいい」というのは、誰かに面と向かって言われたことではなくて、長いあいだ自分で自分に言い聞かせてきたものでした。それに気づくまで、けっこう時間がかかりました。苦手だと思っていたことが、職場が変わっただけで消えてしまった経験も、私にはあります。うまくいかないのを全部自分のせいにしていたころの話は、こちらに書きました(→【看護師をしていて気づいた。苦手なことは克服じゃなくて、環境で消えるものだった】)。
派遣が自分に向いているかどうかで迷っている方には、向いている人と向いていない人の線を正直に引いてみた記事もあります(→【派遣看護師に向いてない人・向いてる人。両方やった私が正直に線を引いてみた】)。
登録から実際に働き始めるまでの流れは、私が通った順番どおりに書いてあるので、始め方から知りたい方はこちらへ(→【派遣看護師になるには?登録から働くまでの流れを実体験で解説します】)。

